6.GLORY DAYS

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光正と2人きりなんて、 再会してからは初めてで。 それでも不思議なほどに、 昔と変わりなく話していた。 「以前の職場の先輩がさ、 脱サラして父親のバーを継いだんだ。 そこでもいい?」 「うん、この近く?」 「ううん、ちょっとだけ歩く。 雨が降ってるのに、ごめん」 「でも行きたいんでしょ? だったら行こうよ」 滅多に我を通さないこの人が、 『行きたい』と言った店なのだ。 たぶん、 とても好きな先輩だったのだろう。 「かなり小降りになったな。 これならタクシーを拾わなくても 大丈夫そうだ」 「うん、日頃の行ないだね」 ふふっ…と光正が声を出さずに笑う。 「久々に聞いたな、それ。 『日頃の行ない』って雅の口癖」 「…うん、私の口癖」 小さな思い出が、 まるでタイムマシンのように 私達を過去へと誘う。 時間を遡り、 恋人同士だった頃に戻ってしまいそうだ。 手を繋いで歩くのが、 当たり前だったあの頃。 今ではその“当たり前”のことが、 こんなにも難しいだなんて。
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