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日本の首都の中心街から少し離れた町にある、ごく普通の小学校である。黒ずんだ外壁に四階建てだ。校庭では五年生がどこか陰りある表情で活き活きと体育の授業を受けている。生徒たちは担任教師の機嫌をとるように活き活きとした様子を演じてみせているのだ。担任教師の無言かつ笑顔の圧力が生徒たちの顔に陰りを作っている。しかし、顔の陰りの主たる理由は次の時間、つまり四校時目での音楽の時間への憂鬱によるものであるらしい。三週間後に開かれる全国音楽会へ向けた練習を行うのである。生徒たちはやがて来る四校時目の始まりを少しでも引き延ばせないかと、この重苦しい体育の授業を時計と担任教師の顔色を交互に見ながら過ごしている。延々とボールを蹴り続けて……。
そして担任教師による授業終了の合図。チャイムは鳴らない。チャイムの音程が耳につく外部のクレーマーによってある日から音は消えたのである。生徒たちはその時同時に何か重要なものを失ったような気がした。
体育の授業を終えた生徒たちは暗澹としてのろのろと着替える。皆は他愛ない話をして笑い合っているが、口の端には深刻に緊迫した気持ちが表れている。ここで、ある生徒同士が話し合っているのが目につく。
「あいつは頭がおかしいよ。俺らが小学生で知恵が無いと分かってあんな仕打ちをするんだ。担任でさえ何も言えないんだから困るな」背の高いカマタが言う。
「そのとおりだ。俺はもうなやみになやんで親にチクったら分かってくれたけど、嫌な親だと思われるのがやだから何も言えないってさ。何のために親がいるんだか。そろそろ我慢ならないな」眼鏡のヤマモトが言う。その後彼らは何らかの相談をして大きくうなずき合った。目が輝いている。
彼らは親友同士、普段は非常に従順な生徒で担任にもかわいがれているのだが、それはいわば「昭和な」考えを持っている大人の扱い方を理解しているに過ぎない。
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