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カマタは右頬を押さえてミサワを見てニヤリとし、こう言った。
「さっきのあなたの発言は、ヤマモトくんが録音しておいてくれました。」カマタの脳裏にも、あの台詞が浮かぶ。
「世界の終わりだ」
ヤマモトがひな壇で立ち上がり、カマタ同様ニヤリとして口笛を吹いた。ミサワは後ろに尻餅をついてヤマモトを見る。彼女は落胆したようにのろのろと立ち上がり、深呼吸をして言った。
「私が狂っていると思っているでしょうね」
ミサワは次の日から来なくなった。ヤマモトやカマタの保護者を通じた激しい抗議の結果である。音楽会の指導は若く温厚な音楽教師が行うことになった。生徒たちは雀躍した。担任らは変わらずに白線を眺めていた。
やがてカマタやヤマモトを含めた生徒たちは気づく。歌が乱れていることに。新音楽教師や担任らは何事も無かったように生徒たちを褒めたが、生徒たち自身は気づいている。合唱にはたしかに魂が入っていない。大切なものが欠落している。それはチャイムが消えたときの気持ちに似ていた。
全国音楽会まで二週間、一週間……。
全国音楽会当日、喝采を浴びながらステージに登り、ニコニコ顔の音楽教師の指揮のもと、彼らは歌った。
ついに自由は彼らのものだ
彼ら空で恋をして
雲を彼らの臥所とする
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
太陽を東の壁にかけ
海が夜明けの食堂だ
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
太陽を西の窓にかけ
海が日暮れの舞踏室だ
ついに自由は彼らのものだ
ついに自由は彼らのものだ
彼ら自身が彼らの故郷
彼ら自身が彼らの墳墓
ついに自由は彼らのものだ
……。
暗澹とした顔だった。彼らの歌が終わったとき、まばらな拍手がおこり、観客は彼らの歌を忘れた。
その時である。カマタは観客席の真ん中にミサワを見つけたのだ。ミサワはカマタをまっすぐ見つめてニコリと笑った。カマタもニコリと笑いかけた。
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