崩れる夢

8/12
前へ
/71ページ
次へ
「都合のいい偽りの記憶に(だま)されたらダメだよ。君の両親がお互いに歩み寄り、夫婦仲を修復させたのは、美星さんの×がきっかけじゃないか。君はずっと思っていたんだろう? 美星さんにも、家族の温もりを知って欲しかったと。だから、こんな夢を見ているんだ」 「そんな……ことは……」 「頑固だなぁ。だったら、これを見てよ」  薫がそう言うと、今まで白い空間にいたはずの僕たちは、僕の家の前に立っていた。しかも、図書館にいた時には昼間だったのに、今は夜である。 「え? ええ!?」  僕がパニックになりかけていると、二つの話し声が近づいて来た。  美星ともう一人……あれは僕だ。 「姉ちゃん。このまま二人で家出しようよ。家になんか帰りたくない」 「そんなことをしたらお母さんが心配をして、病気がひどくなっちゃうよ?」 「……うん。そうか……。でも、父さんは絶対に心配しないだろうな。僕は父さんのことが大嫌いだ。あの人は、病気の母さんに冷た過ぎる。家族よりも仕事が大切だなんて、あの人こそ病気だよ」 「みっちゃん。お父さんも仕事が辛くて、それで……」 「姉ちゃんは、なんでそうやって父さんのことを(かば)うのさ」 「庇っているというわけじゃ……」  僕は、自分が美星に八つ当たりして困らせている光景を見て、胸に釘を深々と打ちこまれたかのような痛みを覚えた。  これは、秋の星座を一緒に見て、家に帰って来た時の……。     
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加