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「都合のいい偽りの記憶に騙されたらダメだよ。君の両親がお互いに歩み寄り、夫婦仲を修復させたのは、美星さんの×がきっかけじゃないか。君はずっと思っていたんだろう? 美星さんにも、家族の温もりを知って欲しかったと。だから、こんな夢を見ているんだ」
「そんな……ことは……」
「頑固だなぁ。だったら、これを見てよ」
薫がそう言うと、今まで白い空間にいたはずの僕たちは、僕の家の前に立っていた。しかも、図書館にいた時には昼間だったのに、今は夜である。
「え? ええ!?」
僕がパニックになりかけていると、二つの話し声が近づいて来た。
美星ともう一人……あれは僕だ。
「姉ちゃん。このまま二人で家出しようよ。家になんか帰りたくない」
「そんなことをしたらお母さんが心配をして、病気がひどくなっちゃうよ?」
「……うん。そうか……。でも、父さんは絶対に心配しないだろうな。僕は父さんのことが大嫌いだ。あの人は、病気の母さんに冷た過ぎる。家族よりも仕事が大切だなんて、あの人こそ病気だよ」
「みっちゃん。お父さんも仕事が辛くて、それで……」
「姉ちゃんは、なんでそうやって父さんのことを庇うのさ」
「庇っているというわけじゃ……」
僕は、自分が美星に八つ当たりして困らせている光景を見て、胸に釘を深々と打ちこまれたかのような痛みを覚えた。
これは、秋の星座を一緒に見て、家に帰って来た時の……。
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