5人が本棚に入れています
本棚に追加
「君は、父親だって仕事に苦しんでいることを知りながら、家庭が荒んでいる原因を全て父のせいだと決めつけていた。そして、家族の人間関係を悪化させまいと一人で苦心していた美星さんを困らせてばかりいたんだ」
そうだった……。
美星は、喧嘩ばかりしている両親の仲裁に入るだけでなく、父親への不満を募らせる僕の怒りのはけ口になっていたのだ。僕が父さんに生意気な口をきいて喧嘩にならないように、美星が僕の全ての不満を聞いてくれていた。
美星は、何でも受け入れた。姉としてだけではなく、母の代わりとして僕を守ろうとしていたのだ。そうでなければ、いじけてばかりいた弟のことを途中で突き放してしまっていたに違いない。その美星の優しさは、バラバラな家族一人一人の不満や怒りのはけ口となり、彼女は全てを飲みこもうとして疲弊していったのである。
あの頃は、自分の心を保つことでやっとだった僕は、美星にどれほどのストレスを与えていたかなんて、考えもしなかった。美星がいなくなって、僕がもう少し大人になってからあの時の自分の言動を振り返り、僕は美星の重荷にしかなっていなかったのではないかという激しい自責の念を抱くようになったのである。
☆ ☆ ☆
また、場面が変わった。
美星は、キッチンで朝ご飯を作っている。
時計を見ると、時刻は午前五時。
最初のコメントを投稿しよう!