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恋人
「光明……行かないでよ……。私を一人にしないでよ……。一人は嫌だよ……」
大雪の中をふらふらと歩きながら、私はそう呟いた。財布の中身は空っぽで、電車やタクシーには乗れない。仕事で忙しいママに迷惑をかけたくないし、家まで徒歩で帰ろうとしたけれど……寒さのあまり凍えそうだ。
「美星。光明を助けて……」
美星は私のたった一人の親友だった。お星様のようなキラキラの笑顔で周りの人間の心を解きほぐす美星の魅力をかけがえのないものだと私は感じ、美星も、
「沙夜は私なんかよりずっと優しい子だよ。沙夜は自分のことを過小評価しているよ」
と、私以上に私のことを理解してくれていた。
美星の死は、私の心を徹底的に打ちのめしたけれど、私よりもはるかにダメージを受け、憔悴していたのが光明だった。
私は、美星が光明のために色んな役を演じていたことを知っている。
姉として世話を焼き、母として甘やかし、父として叱り、友達として一緒に遊び、時には恋人のように寄り添った。両親が年々険悪な仲になり、家庭は崩壊直前で、美星が光明の欲する色んな愛情の形を与えてあげないと、光明の精神はもたなかっただろう。
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