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美星の死のショックでいまだ頭が混乱していた光明は、私が「美星」を演じているというふうには最初の内は解釈していなかったようだ。だんだんと姉に似てきた、姉の匂いがする私に惹かれていった……。私にはそう見えた。
一方の私はというと、「美星」を演じたら光明が微笑んでくれることに浮かれ、「美星」を演じることで亡き親友と一つになっているような錯覚を覚える喜びに酔い、光明の前では常に「美星」であり続けた。
二人とも、美星の死を受け入れられていなかったのだ。美星の死から目を背け続けたその結果が、私と光明の歪んだ愛の形だった。
高校に進学し、光明は柊くんという親友を得た。その頃には両親の仲も良好なものになっていて、「美星」を演じる私だけが彼の全てではなくなり、光明は冷静さを取り戻していった。そして、自分が恋人を姉の身代わりにし続けていたのだという現実に気がつく。
私には何も言わなかったが、光明が私に対して負い目を抱いていたことは彼の素振りから分かった。時折、私を見る目がとても苦しげだったのだ。
私がこの頃になると「美星」を演じることに疲れ始めていたのを見抜いてもいたようだ。
自分ではない人間を演じるという行為は、私がいったいどんな人間だったのか見失わせかけていた。頭の中で考えていることが、「美星」の思考なのか、私本人の思考なのか、混乱するようになっていたのである。
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