5人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は美星に笑みを返し、姉の白くて細い小指に自分の小指をからめた。
美星の笑顔を目に焼きつけようとしている僕の胸はなぜか苦しかった。
☆ ☆ ☆
僕と美星は、川沿いの道を歩いて家路を急いだ。
さっき美星がケータイで時間を確認したら、知らない内に日付をまたいでしまっていたのだ。
「姉ちゃん、もっと急ごう。母さんと父さんが心配しているよ」
僕はそう言い、星を見上げながらのろのろと歩いていた美星の腕を少し強引に引っ張った。
「え? あの二人が……?」
美星は意外だとばかりに怪訝な顔をした。何か困惑している様子である。
病気だった頃の母さんは薬の影響で夜の九時くらいには眠ってしまい、父さんは仕事が忙しくて家庭を顧みることがない人間だった。でも、母さんの病気はすでに治り、父さんも最近では仕事が落ち着いて少しは家庭的な父親になりつつある。
母さんの病気が重く、入退院を繰り返していた頃、ブラックな会社の激務に父さんの精神はすり減っていて、病気に苦しむ母さんに愛情や同情を示すこともなく、とても冷淡だった。母さんはそんな父さんといつも口論をし、離婚寸前にまでいった時期もあった。
最初のコメントを投稿しよう!