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「謝ることなんかないよ。美星にも、死ぬまでに仲のいい男子がいたんだって思うと、僕は嬉しいんだ。ありがとう、薫」
「……うん」
何となくそんな気はしていたのだ。僕をあの夢から引きずり出すのなら、偽りの夢の矛盾を何でもいいから僕に突きつけてしまえば良かったのに、美星はわざわざ薫の幻を使った。それは、美星が薫に対して特別な想いを抱いていた証拠だろう。
「体はもう大丈夫なの?」
「ああ。右足が骨折しているけれど、頭は異常ないそうだ」
「それは良かった。今、こっちに向かっている山本さんには連絡してあげた?」
「うん。母さんが電話してくれたよ。……でも、沙夜とは直接会って、大切なことを話し会わないと」
「大切なこと?」
僕と沙夜が最近お互いに距離をとっていることを知っている薫は、ちょっと心配そうな顔をした。
「沙夜に、僕の気持ちをちゃんと伝えないといけないんだ。これからのために……」
僕が決意をこめてそう言うと、薫は表情を和らげ、
「そうか。がんばってね」
と、僕を励ましてくれた。
「うん」と僕が頷いたちょうどその時、窓から光が差しこんできた。
朝が来たのだ。
☆ ☆ ☆
日が昇りきった後、沙夜が憔悴した顔で病院に駆けつけた。一晩中、雪の街をさ迷い歩いていたらしい。
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