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あの頃、我が家はとても苦しかった。両親がいさかい、子どもに愛情を向ける余裕がなかった長い年月、美星だけが僕の心の支えだった。美星は、不器用で頼りない弟の世話を焼くだけでなく、両親が喧嘩を始めると、二人の間に入って仲裁もしていた。僕は美星の背中に隠れて縮こまっていたが、美星は、
「二人とも喧嘩はやめて!」
と、必死になって二人の口論を止めようとしていた。姉の美星ががんばっているのに、それに比べて自分はなんて情けないのだと、当時の僕は弱虫な自分が大嫌いだった。
……いや、今でも自分が好きではない。たぶん、僕はあの頃と何も変わっていない。強くなんかなれていないのだ。
こんなにも頼りない弟で美星に対して本当に申し訳ない。
僕は、美星の困惑した表情をじっと見つめながらそう思った。
……もしかしたら、美星は怒っているのだろうか? とても苦しかったあの頃……美星が両親の不仲に心を痛めていた時に、僕が何の力にもなれず、美星にすがって姉の心の負担を余計に増やしていたことを恨んでいるのでは……。
僕は、時折そんな不安に襲われてしまう。
「早く帰ろう、姉ちゃん」
不安をかき消すように、僕は少し唇を震わせながら笑顔を作って言った。
「うん……。そうだね」
美星は表情を和らげ、いつもの温かな笑顔を僕に見せてくれた。
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