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私は驚き、視線を慌てて反らし、上部の広告を見ているふりをした。
だがそれきり、女性は遠くを見ていた。
人いきれでむっとしている車内で、その女性だけが別世界にいるような不思議な光景だった。ちらちらと視線を送っていたら、女性の目に涙が浮かんでいるのが見えた。
具合でも悪いのかと思い遠慮なく女性を見たが、彼女の眼中に私はまるで映らないようだった。
それからすぐ、女性は本をカバンに直し、次の駅で颯爽と降りて行った。彼女が降りる時だけ、海が裂けるように混雑した車内に隙間が出来た。それはそれは不思議な光景で、私はそのことが仕事中もずっと頭から離れなかったのだ。
だから私は、仕事を終えると本屋に立ち寄った。
大学時代は小説が好きで、よく自作の小説も書いたりした。だが働きだして家庭を持つと、そんな趣味があったことさえ忘れてしまっていた。
久方ぶりに小説を読もうと思い立ったのは良いが、大型書店を選んだのがいけなかったのか、ずらりと並ぶ文庫本やハードカバーの表紙に、少し酔った。
この調子ではあまり長居もできまいと、電車でも読めるよう文庫本の、書店員おすすめと書かれている二冊を適当に取る。
それからレジを探していると、まるで私を呼ぶかのように、売り場の一角に光を感じた。
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