私を呼ぶ本

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今朝、電車で見かけた女性は、もしかしてこの本を読んでいたのだろうか。 いや、たぶんちがうだろう。こんな古い海外の本を、今の若い女性が読むはずがない。 ……でも。 私と付き合っていたころの彼女は若かった。今日見かけた女性のように。 私はあれから年を取り、幾つかの苦労もしてきた。 教訓めいた台詞や、押し寄せる不幸を、今の自分なら飲み込む事が出来るのではないか。 あの時彼女が感じたこの本の素晴らしさを、味わえるかもしれない。 まるであの頃の自分に戻ったようだ。私の気持ちは高ぶった。 この本を読む時が待ち遠しく思える。 「今がとても愛しく思えるの」 それが、この本を読んだ彼女の感想だったから。 了
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