私を呼ぶ本

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私を呼ぶ本

最寄りの駅が始発駅だと、通勤電車で毎朝必ず座席に座ることが出来るという利点がある。 一刻を争うほどの遅刻でもしていない限り、私は先発が混んでいれば次発に乗ってでも必ず座席に座る。 読書を楽しむために。 最近読んでいるのは、古本屋で見つけた、古い海外小説。 今日も空いている次発を選んで、前から2両目の後方、三人掛けの座席の壁際に座った。 紙の本の良いところは、今小説のどの辺まで読み進んでいるか一目瞭然でわかること。 この文庫本は分厚いけれど、もうすでに数十ページを残すところまで読み終えている。 押し花をパウチした手作りのしおりを抜きとり、そっと左手の親指を差し込む。 少しお尻の位置をずらし、カバンを膝の上にバランスよく載せ、その上に肘をつくような格好で読む体制に入る。 先発の車両が発車するとリズミカルなメロディで知らされる。 ベルが鳴り、先発の電車が動きだした。それを見送って、私は本の世界に没頭する。 この物語は、サーカス団の元に生まれた女の子が主人公。     
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