オクラに漢字と感情はない

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
僕はオクラと会話ができる。 ああ、分かっている。突然こんなことを言うと、まず間違いなく憐憫の目を向けられるだろう。 だが、聞いてくれ、この家で育てられているオクラはそれはもう流暢に喋るのだ。 「ねぇねぇ」 ほら、今日もウチのオクラがオピニオンリーダーだ。 「何だよ」 「アタシ思うんだけど。最近、栄養足りなくない?あと日光も」 「そう?充分だと思うけど...」 「なーんか最近肌のツヤが悪いのよ」 (どこが肌だよ)という思いを飲み込みつつ。 「えーと...相も変わらず綺麗な緑色だよ」 「ちょっ、やめてよ突然綺麗なんて...」 僕は思いもがけず褒めたようだった。 「ね、ねぇ...何のオクラ料理がいい?」 「...オクラ本人がそれを気にする?」 「い、いいじゃない、世間話よ世間話っ」 その話題は野菜的にタブーじゃないのか? 「うーん...そーだなあ...おひたしとかー、天ぷらも好きかな」 「そ、そっかー、好き...か」 多分、彼女は目を伏せて小声で呟いたのだろう。 「どうして突然そんなこと聞いたの?」 「そろそろ私も食卓に並ぶ頃かなーって」 「怖くないの?」 「全然!野菜は食べられるのが最高の幸せだもの!」 表情もないハズのオクラが、笑った気がした。 こうして、僕の隣に咲いていた彼女は、収穫されていった。 僕自身は、そうだなあ...この時期なら生でそのまま食べていただきたいかなー...なんて。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!