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『一緒に住むのに、顔も見ないで過ごせる自信はないですよ? もし見てしまったらどうなるんですか?』
返信は早かった。
『その時考えます。』
要するに彼女は見られない自信があるんだ、現に住み始めて一年余り、俺は彼女の白い手しか見ていない。
名前は近藤ひろみ。
さっきから彼女とは言っているが、女だと言う確証もない、よりによって名前も中性的だよな。でも手の感じから女性だと思っている。
年齢は知らない。
でも唯一知っている手からは、病的な程白くて細いが若いとは感じる。
仕事はゲームのグラフィックデザインを在宅でやっていると言っていた。
対人恐怖症の引きこもり故、ずっと部屋で黙々と作業しているが、一人きりでそんな事をしていると、今日が何月何日で季節も天気も判らず、時に時間の感覚すら無くなるので、自分に喝を入れる為に同居人を探していたと言う、俺で10人目だと言っていた。
しかしどいつもこいつも長続きしないそうだ。そりゃそうだろ、硬くなに手しか見せない同居人は怖い。
人前に出られない容姿なのか、顔に大火傷を負っているとか?
そんな良心的な事も思っても見たが、やはり不気味だ。
でも彼女は宣言通り、家事に手抜きはしない。
どうやら俺の起きる気配で朝を感じているようだ、そして平日は俺が会社にいる間に分担の家事をこなし、なんと洗濯もやってくれている。
正直下着も干されているのは恥ずかしいが──有難いから目は瞑る。
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