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今まで通り暮らしましょう、うん、それでいい、そしてそのうち、むふふな事に……。
などと、下らない妄想を膨らませているうちに、随分時間が経ったらしい。
トントン、と控えめな音でドアがノックされた。
「あ、はいっ! 今……!」
「そのままで聞いてください!」
彼女の悲痛とも言える声がした。
「あの! 醜態晒してごめんなさい! 忘れてください!」
「忘れるって……。」
俺は呟きながらドアに近付き、傍で耳を澄ませた。
忘れるなんて無理だよ、床で小さくなったあなたの姿が脳裏に焼き付いてるよ。
「私、鷹栖さんとの生活は、とても気に入っています!」
「──え?」
「鷹栖さんは一年も私との約束を守ってくれました! とても嬉しいです! できればこのまま、鷹栖さんと暮らしたいです!」
「え、でもさ、もう顔見ちゃったから、その約束は少し変えても……。」
一つ屋根の下暮らしてるのに、顔も見せないすれ違いみたいな生活ってどうなんだよ?
「嫌なんです!」
強固な意志を感じる言葉は、一年前と変わらない。
「誰かに見られていると思うだけで死にたくなります……! お願いです、今まで通り暮らしましょう!」
「嫌だ、って言ったら?」
俺はドアを撫でながら言った、この向こうに彼女がいる、彼女が自分の部屋以外の場所にいるのは初めてだ、新鮮だった。
いつもと逆の立場──俺は今ここから出たい、彼女もいつもそう思ってたんじゃ……!
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