立ち往生

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 進藤貴雄、38歳。バイトだけで食い繋いでいる孤独な男だ。  そろそろ若いとも言えない年齢になってきて、将来に不安を覚えていた。このまま40歳になっても、介護保険など払うことはできない。こんなど田舎で暮らす以上、いい加減、新しい車も仕入れないと困る。とにかく、金がないのだ。  もちろん、ここから生きて帰れなければ意味がないが。今は、その命のために、なけなしの金を払うことも厭わない。最悪、仕事はあるのだ。金は、必要なら借りる。  何かを覆い隠すように立っている木々を、光を求めて抜けていくと、一軒の建物があった。  それは、古い日本式の家屋で、明かりはその窓から漏れてきていた。  お店などではない、ごく普通の一軒家。特に社交的でもないどころか、むしろかなり内向的な俺としては、あまり嬉しくない。できれば何かのお店であってほしかった、というのが本音だ。  とはいえ、命が懸かっている。えり好みはしていられない。  俺は勇気を振り絞り、玄関のチャイムを鳴らした。ピンポーン、とチャイムの音が響く。  チャイムを鳴らして5秒も経たないうちに、開き戸が開き、一人の老婆が顔を出した。 「はあい、いらっしゃい。この雪の中じゃ、寒いでしょう。中へどうぞ」  俺は違和感を覚えた。普通、誰が来たか、何の用事か、と先に確認すると思うのだが。 「ほらほら、開けっ放しじゃ、あたしが寒いでしょうが」  急かされるように言葉を重ねられ、ハッとする。 「そうですね、すみません」  確かにその通りだ。俺は慌てて中に入り、扉を閉めた。お婆さんにこの寒さは堪えるはずだ。しかも、どうやらお婆さんは、コートなど羽織らずに、中にいたときのままの服装で出てきているらしい。どうしてそこまで気が回らなかっただろうか。 「こたつにでもお入りくださいな。あたしも、そうさせてもらうから」  お婆さんはそう言うと、さっさとこたつに脚を入れてしまう。そのすぐ脇に、木製の入れものとポットが置いてある。その入れものは、深さが少なくとも12センチ、直径が40センチくらいありそうな円柱型だ。蓋を開けると、お茶のセットが入っていて、お婆さんはゆったりとした動作で、煎茶を淹れ始める。 「お気遣い、ありがとうございます」
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