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「…さあて、それはどうだかな。
悪いが私は平行線にするつもりはない」
何か考えがあるのか、父親はそんなことを言った。
「…望むところです。
では父上の策をお伺いしましょう」
青年は距離を推し量るように答え、
ベッドにドサリと腰を下ろす。
奇妙な静寂の中、
ぴりりぴりりと、あの稲光のような
緊張が筋を作っていた。
「…策とな。策ではない。
あくまで二者択一だ。
おまえは必ずどちらかを選ばなければならない」
「…相変わらず高圧的な方だ。
良いでしょう、余程でなければどちらかを受け入れても」
「…ふむ。…では前者から申そう。
おまえが学徒出陣するというのなら、徴兵検査の際、軍医全てに手を回し【不可】とさせる」
「…前者からとんでもない。
そんなことを実行すれば、
海軍大臣が一番の非国民だと非難を浴びます。正気ですか?」
「この期に及んで戯れごとなど言う訳がない。私は大真面目だ。さて、後者を述べるとしよう」
「…どうせ奇想天外なことなんでしょう?」
青年が革靴の踵で弾みをつけ、ベッドを揺らす。青年の苛立ちを隠すように、
ベッドのスプリングはキシキシと小さな音をたてた。
「…奇想天外とは無礼な。
義成(よしなり)の娘、菫(すみれ)との話だぞ」
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