第1章

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「…さあて、それはどうだかな。 悪いが私は平行線にするつもりはない」 何か考えがあるのか、父親はそんなことを言った。 「…望むところです。 では父上の策をお伺いしましょう」 青年は距離を推し量るように答え、 ベッドにドサリと腰を下ろす。 奇妙な静寂の中、 ぴりりぴりりと、あの稲光のような 緊張が筋を作っていた。 「…策とな。策ではない。 あくまで二者択一だ。 おまえは必ずどちらかを選ばなければならない」 「…相変わらず高圧的な方だ。 良いでしょう、余程でなければどちらかを受け入れても」 「…ふむ。…では前者から申そう。 おまえが学徒出陣するというのなら、徴兵検査の際、軍医全てに手を回し【不可】とさせる」 「…前者からとんでもない。 そんなことを実行すれば、 海軍大臣が一番の非国民だと非難を浴びます。正気ですか?」 「この期に及んで戯れごとなど言う訳がない。私は大真面目だ。さて、後者を述べるとしよう」 「…どうせ奇想天外なことなんでしょう?」 青年が革靴の踵で弾みをつけ、ベッドを揺らす。青年の苛立ちを隠すように、 ベッドのスプリングはキシキシと小さな音をたてた。 「…奇想天外とは無礼な。 義成(よしなり)の娘、菫(すみれ)との話だぞ」
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