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窮地に立たされた青年の苦悩。
だがそれは私の腕の痺れに勝るものではなかった。
妙な姿勢でベッド下にいたせいか、
ちりちりと腕は痺れ、脚などはもう感覚がない。
そして青年の苦悩など、
(しかも私はあんな目にあったしだ)
私にはまるで無関係なもの。
ついつい必死になっていたが、
あまりにも非現実な展開がこうも繰り広げられては、
やはりこれは夢の中ではと疑いを持った。
そしてこれからやはりこれは夢だと確信するにつれ、背に羽の生えた青年が空を飛び、
キヌさんが豚になる可能性だってある。
「…菫嬢が僕を…」
「…どうだ海里、心変わりしたか?
何なら書類の所からやり直してもかまわんぞ」
「…そうですね、父上」
そう青年が言うや否や、
私の視界は突如ぐるりと変わった。
腕を一気に引き上げられ、
荷物のように表に出される。
「………わっ…いやっ…ちょっと…!」
我ながらこれ程惨めな格好はなかった。
キヌさんからかけられた浴衣に帯はなく、もしこれが動画サイトにアップされでもしたら生きていけない。
そして虫のように縮こまる私に、
上から声が降ってきた。
「…なんじゃこの娘は…!?
…どうしてシヅ江の部屋にこのように小汚い娘がおるっ!…しかもその乱れた寝間はなんだっ!恥を知れっ!」
土竜(もぐら)はきっと、土の中から無理矢理出されたら、同じ光と恐怖を受けるのだろう。
其ほど溢れる陽光はひたすらに眩しく、
肩越しにちらと見上げた声の主は、
恐怖そのものと化していた。
勲章らしきものがこれでもかとばかりに付いた黒い軍服。
その軍服の上にある顔は、日本史の教科書で見かける偉い人と数々の共通点がある。
偽物に見えてしまう程立派な口髭や、
心臓をつかみ出しそうな鋭い眼光等がそれで、頬にあるシミすら威厳のあるものに映し出すそのオーラは、
対峙するものから動きさえ取り上げてしまいそうだった。
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