第1章

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頭がどこまでも重い。 四肢は伸びきったバネのようで、 体は薄い皮膜で覆われたように ねっとりと湿り気を帯びている。 やがて目を開けることへの恐怖が募る。 そう思えることはすなわち、 …生きている。 だがまだそうとは言い切れない。 語尾には疑問符を付けなければならない程度の感覚だった。 「…もう少しすれば目覚めるだろう。 全裸でいたようだが、 悪戯をされている様子もないし、 大した怪我もしていない。 目が覚めたら精のつくものを食べさせてやると良い」 「…はい、わかりました。 大(おお)先生、お忙しいところをわざわざお越しいただきまして」 どうやら母がかかりつけの医師、 小川先生を呼んだようだ。 寝ている私の横で、会話はまた織り成される。 暫くしてその違和感に気づいた。 小川先生に似通う声はそうではなく、 答えているのも母のそれではないことを。 それに母ならすぐ救急車を呼ぶ。 「…じゃあ我々はこれで失礼するとしよう」 「…あ、大先生、くれぐれもこの事旦那様には」 「わかっているよ。四門(よかど)様は国の所用でお留守のようだし。 …にしてもキヌさんあれだね、この子は運が良い。同じ行き倒れるにしてもこの邸宅の中でとは」 「…はぁ。門は閉めていましたのに、不思議なことです。しかも全裸ときたら訳がわかりません。それに坊っちゃまにも困ったものです。敷地内とはいえ、そこいらの犬コロを拾うのとは訳が違うのですから」 「はは。いや、笑うとは失礼した。 だが私はあの方の頓狂(とんきょう)さが魅力だと思ってね。…そう言えばこの娘を運んで来られたご子息はどこへ?」 「それが私に託されたままどこかへ…」 「まぁこの広い邸宅では探しようもないでしょうな。あの御子息のことだ。 またその内ひょっこりお姿を見せられるでしょう」 再び医師が笑い声をたて、数人の足音と共に去っていく。 これは是が非でも瞼をこじ開けなければならない緊急事態だ。 人の気配が消え去ることを確認し、 私は押し上げるよう、その重い瞼を開けた。
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