第1章

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その青年は私にとって、見たこともない人だった。 見たこともない人というのは私の中で、 会ったこともない人という意味合いではない。 主に外見だけのことを差すが、 殊更条件多く特注された陶器のごとくということだ。 よく目に触れるものではなく、 特別な人間だけの為の。 私は決して美男子好きではない。 どちらかというと、芋に眼鏡を載せたような父親の顔の方が好みだ。 けれどその青年の美しさは例外で、 思わず箱に隠してしまいたくなるような、 そんな不思議な魅力を持っていた。 主のどんな動きにも合わせ、滑らかに従う執事のごとく漆黒の髪。 愛らしさと聡明さを兼ね備えた贅沢な瞳は、独占欲さえかきたてる。 薔薇色の唇は程よい大きさの下に、 歯並びの良さを想像させ、全てのパーツの中心となる鼻筋は、美術室の石膏像を思い出させた。 「…改めて、入っても?」 扉横に立つ青年に訊かれ、思わず頷く。 この人が私を助けてくれたんだという直感。 断る理由は見当たらない。 だがふと言葉の奇妙さに気づく。 私はまだ着替え中だ。 普通の男性なら、 扉の外でそれを待つのではないだろうか。 「…あ…いえやっぱり」 そう言い放つももう遅かった。 青年は後ろ手にドアを閉め、私の元へと歩み寄る。
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