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 麻木のやつ…。と麻木を恨みたくなるが、彼は何も悪くない。  むしろ彼のほうこそこれまでの人生こうして不条理な噂を流されたり誤解されたりして憂き目に遭ってきた張本人なのだ。八奈見のように堂々と否定し、突っぱねる性格ならともかく、そうできないまま人間関係を上手く育めずにいたのだろう。そんな想像がついて不憫に思った。 「今の話を彼が聞いて不快な思いをしないといいんですが」 「あー結構繊細だから、またショックで体調悪くされてもな…」 「でもこういう噂ってすぐ広まるからなあ。中野課長が言わなくてもいずれ麻木くん本人の耳に入るかもしれない」  麻木の身を案じていると、おずおずと上田が混じってくる。 「あのー…僕は他にもいくつか噂を聞いたことあります」 「何だよ? 麻木くんの?」 「はい。志賀さんと一緒に出勤してるとか、長篠さんとご飯に行ってるとか」  きた、と思った。そちらの情報は正しい。ただ、それだけなら同性同士ということでただの親しい友人関係とみなされて終わる可能性もある。八奈見のほうが麻木との密着度が高いし、話題として注目されやすいからこちらの噂のほうが先行しているのかもしれない。
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