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「いえ、いや、それはいいのよ。仕事はちゃんとして。邪魔してごめんなさいね」  そして冷や汗をかき、小太りの身体を揺らしながら急いで執務室を去っていってしまった。  彼女が去ると室内の空気がほっと緩んだのがわかった。 「…おーい。凄い噂があったもんだな。おまえたちデキてたの?」  けらけらと笑いながら金谷が揶揄してくるので、八奈見はこうなる展開を予想していたとはいえ、余計に疲労度が増した。 「もしそうならあんなに喧々諤々とやりあっていません」 「それ! それだよ。特に最初のほうのあのバトルを間近で見てるほうからした考えられない発想だけどな」 「まあ、それが今は落ち着いてるし、和やかに二人が並んで歩いてたら、そういうふうに見えなくもないかな。ビジュアルがもう華やかというか」  金谷が言うように、当初不仲だったことを知る者はとてもそういう目で見られないはずなのだ。  しかし、村山の言葉で気づかされた。  今は落ち着いている。それはつまり、親しく見えるということだ。今は。  当初は喧嘩をしていたのに、今はそうでもない。となると、二人で仕事の話をしているだけで親密そうに見え、二人で残業をしているだけで、八奈見が麻木に手を出しているかのように見えるのだろう。
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