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FATIHA
白灰色の月が、豪奢な構造物と砂漠の砂を照らしていた。
斜めにうっすらと光を投げかける様は、昼間の熱をすべて凪払ってしまったかのように冷たい。
街の外れ、砂漠地帯との境界線の辺りだった。
近くに民家はない。
街の真ん中であれば、まだまだ酒場で麦酒を片手に騒ぐ者もいる時間帯だが、この辺りには人通りもなく、静まり返っている。
昼間であれば、市場に物を運んだ商人や農家の者が、強い日差しを避けながら台車の上の野菜くずを払い、売れ残った品物の数を数え、車輪をカタカタと鳴らす音と、雑談する声がこの辺りでも聞こえる。
だが日も暮れたこの時間帯は、別の世界であるかのように静かだ。
白い満月と、美しい細工のような砂の山々、冷えた静かな空気。
土煉瓦を積み上げ、そびえ立つ王族の墓地は、白い砂がザラザラと零れたかのような星空に、幾何学的なシルエットを作っていた。
複数の大きな川が流れ、たびたびの洪水で肥えた地域であった。
砂漠地帯の真ん中に、オアシスのように広がった豊かな地域に、長い時代をかけ周辺の地域の人々が住み着き、都市国家となっていった。
歴史の当初の頃には次々と変わっていた支配層も、数百年前にはリシャウィ家に落ち着き、その後、治世はほぼ安定していた。
都市が大きくなるにつれて進んだ治水工事をきっかけに、自然科学が重要視される風潮が出来た。
元々小さな農村の寄せ集めから始まった国家なだけに、暦と気象学は重要視されていた。
だが、開発を出来うる限り早めようと、がむしゃらに事を進めた初期の時代に、この都市国家は、ひとつの川を枯らしかけた。
そのトラウマから、自然科学全般が重要視されるようになった。
無限にあるかのように見える大河の水も、何の計算も調査もなく水を引けば、枯れることがあるのだ。
また、目の前の狭い地だけの利益を元に、自然の動きを変えれば、逆に大洪水を生むこともある。
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