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II sahra
熱っぽい風に吹かれ、アンジェリカは辺りを見回した。
放り出されていた場所は、砂漠に隣接した地域ではあったが、見知った地域よりも、砂漠の砂が荒く色も濃かった。
見渡した先にある街は、大きな建物もある栄えた所らしかったが、建物のデザインが明らかに住んでいる地域のものとは違う。
普段住んでいる地域では滅多に見ることのない雲が、うっすらと青い空を漂っている。
湿気が多いということだ。
そういえば手がベタベタするような気がする。
水浴びしたい。
ここがどこなのか見当つけるのと、沐浴できる場所を探すのと、どちらを先にしたらいいかしら。
アンジェリカは、日傘を掲げ、僅かに生えた草の上に三角座りした。
陽の当たる場所の砂は、熱せられて立っているのも無理そうだが、岩陰はひんやりとしている。
推測ではあるが、おそらく転送装置にデータ化される時に、別の物質が空間に入り込んで、こちらが異物として排除されたのだろう。
タイミングが少しでも違っていたら、その物質と融合していた可能性が高い。
あの野郎、それでも、まっいいか、くらいに思って転送を強行したんだわ。アンジェリカは歯噛みした。
どんだけ無茶苦茶なのかしらと思った。
親の顔が見たいと言いたいところだが、彼の育ての親は、例の行方不明中の師匠だ。
よく知ってる方だし、憧れてる方だし。アンジェリカは複雑な表情で眉を寄せた。
ともかくいつまでもここに居たら、日傘があったとしても日焼けしちゃう。せっかく綺麗な肌なのに。
アンジェリカは、遠方に見える街を眺め、日傘をクルクルと回した。
駱駝に乗ったイケメンが通らないかなあ。
細い首を伸ばし、青い目を凝らす。
富豪の息子なんて贅沢は言わないから、優しくてエスコートが上手くて、お洒落で知的なイケメンがいいなあ。
アンジェリカは砂の目の荒い砂漠を見渡した。
人っ子ひとり通らない。
太陽は、真上に近い位置だ。
転送装置で転送されそうになったのは夜だった。
時間もかなりずれたみたいだ。
あの野郎、よくもこんな、お肌に悪い時間帯に放り出してくれたわね。
アンジェリカは、ピンクの唇を尖らせた。
不意に、背後に何かの気配を感じ振り向いたが、熱せられた空気が立ち上る背後には、何もなかった。
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