II sahra

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 フェリヤールと  いいまぁす。  うわ即座に返ってきた、とアンジェリカは拍子抜けした。  落ち着け、と胸元に手を当て自分に言い聞かせる。  悪霊なら嘘を吐くものだ。  巫女時代はこんなことをちょくちょくやってた。  アンジェリカは静かに息を整えた。 「それは本当の名前? もう一度、本当の名を名乗りなさい」  本当の名前はねえ、  そのあと、不明瞭な音声が続いた。  およそ聞いたことのない発音だ。五感では聞き取れない。  元巫女としての、別の感知能力で何かを発してることだけは分かるのだが、聞き取るまでは出来ない。 「もう一度」  本当の名前はあ、           といいますう。  くっそ。名前の部分だけ、どうしても聞き取れない。アンジェリカは目を眇めた。  三次元では、  あんまり聞き取れるひと、  いないんだってー。  くすくすくすくす。くすくすくすくす。 「三次元って? あんたは別次元の存在ってこと?」  アンジェリカは言った。     なんだって。くすくすくす。 「こっちが分かる発音で言って」  五次元なんだって。  くすくすくすくす。    ばあっ。 「う……」  アンジェリカの足元から、少女の顔が生えてきた。  さすがに心臓の速度が一瞬だけ速くなった。  黒髪短髪の、ボーイッシュな感じの少女だった。  少年のようにも見えるが、目元の優しい感じと薄桃色の可憐な唇は、どちらかといえば少女のものであろう。   全体的に白い光を放っているように見える。  三次元の生物の目の機能にはあまり合っていないのか。  にゅっと首を伸ばしたかと思うと、今度はアンジェリカの背中から全身を現した。  (さなぎ)から出る昆虫のように反らした背に、大きな翼のようなものが生えていた。  一見御使いのように見えたが、違う。  楕円形の薄く光る何かが背中にあるのだ。  (オーラ)かな、とアンジェリカは思った。  三次元の者の目では、(オーラ)が可視化されてしまうということだろうか。 「ま、まあ、なかなかの美少女じゃないの。あたし程じゃないけど」  アンジェリカは、動揺を隠すために強気の台詞を言ってみた。  フェリヤールとやらは、あさっての方向を向いていた。  意思の疎通がいまいちなのか、元々空気を読まない性格なのか。  よく見ると、ひらひらした薄い感じの服を身に着けているようだった。
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