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Ⅳ alqasr almalakiu
作業机の上に大小大量の歯車を並べ、ハーヴェルは片眼に付けたルーペを外した。
転送機を分解までしてみたが、白い異物が入り込んだ原因が分からない。
そもそも、余計な素粒子が入り込まないように設定しているのだ。
肉眼で見えるような大きなものが入り込むのは、考えられない。
それともあの魔女が、と考えた。
何かあの場に別の仕掛けをしていたのか。
それとも、あのふざけた日傘型の重力コントロール装置が、思ったより影響範囲の大きなものなのか。
息を吐き、髪を束ねてた紐を解いた。
アンジェリカの使役していた死体たちは、その後運び出され、埋葬し直されたと連絡を受けた。
その際に、あの場に何かおかしな仕掛けがあったような話は聞いていない。
魔女たちの使う技術と錬金術師たちの使う技術とでは、仕様がだいぶ違う場合が多いので何とも言えないが。
自宅に帰って来たのは、昼をだいぶ過ぎた時間帯だったが、気が付くと陽が暮れかかっていた。
タキオン動力のランプを点け、明るさを調整した。
原因をもう少し探りたかったが、さすがに目が疲れた。
少し仮眠を取るかと思った。
寝台は、作業机のすぐ横にあった。
師匠のイハーブは、日常の家事そっちのけで、研究や仕事上の作業に没頭してしまう癖があった。
ハーヴェルを引き取ってからは、だいぶ気を使って規則正しい生活にしていたが、片付けだけは、それほど改善はされなかった。
作業机には常時書物が積み重なり、薬品の瓶が並べられていたりした。
作業机の片隅に、とりあえず二人分のスペースを開けて食事をするのは日常だった。
もちろん危険な薬品は食事前にバタバタと片付けてはいたが、当時カディーザが「子供を育てる環境じゃない」と怒っていた気持ちは分かる。
何より研究以外はお構い無しの性格を一番よく表しているのが、作業机すぐ横の寝台だとハーヴェルは思っていた。
他にも部屋はあるのに、わざわざここに設置していた。
ハーヴェルを引き取る以前は、眠りたいときに不規則に仮眠を取るだけの生活だったことがよく分かる。
ハーヴェルは、寝台に横になった。
引き取られて数年の間は、この寝台で一緒に寝ていた。
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