Ⅰ saradab

3/11
105人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
 タキオンの灯りの中、ゆっくりとした動作で蠢いている者たちがいた。  ザク、ザク、と一定間隔で音を立て、土を掘っている。  黒ずんだ肌の、異臭を放つ男たちだった。  上半身は裸。  汚れたズボンだけを無造作に身につけ、土の上にもかかわらず裸足だ。  どの者も逞しく筋肉質だが、動きは鈍く、ぎこちなかった。  腕を大きく動かしているが、腕の他の部位は一切動かない。  それが酷く不自然な印象を与えていた。  普通の人間であれば、どこかを動かせば、身体の他のパーツも連動し動くものだ。  彼らはただ機械的に、野太い腕のみを左右に動かしていた。  表情は無かった。  無表情というのとは違う。  表情を付けるという機能が既に失われているのだ。  脳の構造も、それを伝える神経も、もはや腐り落ちて存在しないのだ。  顔に残った黒ずんだ筋肉や皮膚は、ただ頭蓋骨を覆っているだけのものでしかなく、生前の生き生きと動いていたときの姿は想像しにくい。   ハーヴェルが傍まで来たことに頓着することもなく、ひたすら男達は作業を続けていた。  眉の下の窪んだ箇所にある眼球は、既に乾いて白く濁り、物を映す機能は無いはずだ。  いつも思っていたんだが、とハーヴェルはまじまじと見た。  どうやって物を見ているんだかな。  研究者としての興味が少々湧いた。  だが、辺りにプンプンと漂う、腐乱しかけた肉体の匂いと、男たちにこの作業をさせている人物への嫌悪感の方が勝った。  さてと、という感じに一息つくと、一番手近にいた男を足蹴にした。 「(しま)いにしろ、馬鹿野郎」  足蹴にされた男は、身を守るための仕草を一切せず、地面に倒れた。  傾けられた木人形が、重力のまま床に落ちるときのように、ゴトン、と土の上に転がった。  腹部に溜まっていた腐汁が、身体が傾くのに合わせ、たぽん、と腹の中を移動する。  倒れてもなお、土の上で腹這いになって腕だけを左右に動かそうともがいていた。
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!