II sahra

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 所々に点在した大小の岩、その周辺を中心にして僅かに生えた丈の短い草。  そして濃い色の砂が作った少々不完全な形の山が、地平線の方まで続くだけだ。  だがアンジェリカは、何もない空間の一点を、じっと見つめた。   そもそも、自身が放り出された原因になった物質は何だったのか。  転送装置は、本来ならドーム型の機器に転送したいものを入れ、密閉した状態で起動させるタイプが基本だ。  ハーヴェルが使ったような簡易型のものは、余計な物質が入り込まないようにする機能を必ず付けるものだ。  あの大嫌いな錬金術師の腕なんか信用してないが、彼の師匠は完璧なお方だ。  あの完璧なお師匠さまが、おかしなものをあいつに教えてる訳はない。  あいつが何で失敗したのかを探れば、もしかしたら、あいつの弱味になったりするかしら。  アンジェリカは唇の端を上げた。  そうとなったら、通りかかるかどうかも分からないイケメンなんて、待ってる場合じゃないわと思った。  日傘に仕込んだ重力のコントロール装置を作動させる。  ふわりと足元が浮き、アンジェリカは、進む方向に目線を向けた。  その時だった。  くすっ。  笑い声が聞こえた気がして、左横を見た。  何もない空間をまたじっと見て眉を寄せるが、しばらくしてすぐに前方に目線を移す。  くすくす。くすっ。  今度は右から。  青い目を細めて右側の空間を見る。  くすくすくすくす。  次の瞬間、アンジェリカの胸元から、にゅっと白い手が生えた。 「やだちょっ、痴漢!」  アンジェリカは、わたわたと胸の辺りを手で振り払った。  次の瞬間、違う、と思った。  手は、細くて優美な形状をしていた。  女だ。 「やだー、砂漠のど真ん中で女の痴漢に会うとか、意味分かんないいい!」  きゃはははは。  しかも通常の生物ではない。  幽霊、のようなもの。  これでも五百年前はエトルリアの巫女だった身だ。  神殿の美しき白の御使いとか言われちゃってたんだからね、とアンジェリカは心の中で啖呵を切った。  幽霊が物理的にどういった物質かも、自然科学の探究者として知っている。 「何者? 名前を名乗りなさい!」  アンジェリカは、五百年前の巫女時代を思い出し、凛とした声で命じた。  
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