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それまで住んでいた寒村の家の、保存食が少々吊るされているだけの室内とは違い、見たこともない薬品の瓶や装置が大量に並べられている部屋は、子供心にワクワクした。
その部屋に、機能性のみ重視で設置された寝台は、二人で寝ると少々狭かったが、むしろ秘密基地のような感覚で、子供の頃は毎晩はしゃいでいた。
イハーブは顔を顰め「早く寝なさい」と言っていたが。
そういえば。
アイマールが何か言っていたと思い出した。
養子としてカディーザに渡すつもりもあったらしいのに、突然気が変わったとか何とか。
カディーザが将軍の遠征先について行った頃と言っていた。
三回ほどあったと思ったが。
一番初めは、ハーヴェルが十二歳の頃だった。
養子云々の話をしたとしたら、その時かと思った。
寝台横の棚を探った。
川魚の干したものが入った布袋があった。
手探りでひとつ取り出すと、ハーヴェルは横になったままで噛った。
イハーブは、気紛れで意見を変えるような性格ではなかった。
自分の生活形態が、子供を引き取るのに向いているものではないことも、常識としては知っていたはずだ。
引き取られて一年後に、ハーヴェルがごねて無理やり弟子になったのだが、イハーブは、読み書きなどは丁寧に教えてくれつつも、錬金術師になるのは反対していた。
弟子になったから手元で育てようとしたという理由は、この辺りを考えたら当てはまらない。
ハーヴェルは、干し魚を噛みちぎった。
過去のイハーブの話が出てくるたび、どうしても延々と考え込んでしまうのは、いつ不死にされたのかが全く分からないからだ。
おそらくは、イハーブと同じ方法であろうとは思う。
この辺は、カディーザとも意見は一致していた。
イハーブの不老不死の方法は、彼の師匠にあたる人物が開発したもので、イハーブ自身は不死の方法を独自で研究してはいなかった。
方法は、改変したヘルペスウイルスによる遺伝子の書き換え。
生物の遺伝子は、細胞の傷が増えた個体の増殖を防ぐために「死」を敢えてプログラミングしている。
このプログラミングを、特定の遺伝情報を組み込んだウイルスを導入することで書き換えてしまう方法だ。
そのため、成長期に不死にされた場合は、生物として通常通り成長する。
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