Ⅰ saradab

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 重厚な鉄製の扉を開けると、ガコン、キキイ、という耳障りな音が響いた。  数段の短い階段を降り、また重い扉を開ける。  半地下の広い空間があった。  上方にある、宗教的デザインを兼ねた小さな明かり取りの窓から、月の光が差し込み、シンプルな祭壇が薄青く浮かび上がっていた。  左手に、扉のない長方形にくり抜かれただけの地下への入り口があった。  そっと覗いて奥を伺う。  地下に通じる階段の下方から、灯りが漏れていた。  松明(たいまつ)と違って揺れることのない、タキオンを動力源にしたランプだ。  壁に手をつき、様子を伺いながら、ハーヴェルは階段を降りた。  階段奥が左折しているため、ランプはこちらを直接照らしはしなかったが、それでも日干し煉瓦の階段を降りるのに、不自由な暗さではない。  足音を忍ばせ降りていくと、大きく(ひら)けた空間に出た。  非常に広い地下空間だった。  所々に、大人二人が手をつなぎ輪を作ったほどの、太い柱が建ってる。  柱には、宗教的な文章と、河辺の植物を絡めた文様がデザインされていた。  足元には、奥の方までずっと、人一人が立ったほどの深さまで、河辺の土が敷き詰められている。  王族の遺体は、全てその下で眠っている。  複数の河より始まった都市国家は、河を母、国家をその子とみなし、死後には母である河の元で眠るという、土着の宗教的な考えがあった。  かなり以前には、支配層も一般人も、河辺に遺体を埋葬していた。  だが、治水工事が進み、伝染病への理解が浸透するにつれて、砂漠側に墓地を作り、河から運んだ土を敷き詰めるという方法が取られるようになった。  王族の場合は、大量の河土が運び込まれた墓地に埋葬されるという、やや昔ながらの方法だが、庶民の場合は、時代が下るにつれて簡略化され、河の土を入れた小袋を遺体に握らせ、埋葬するというのが一般的になっていた。  一番最近埋葬されたのは、王の大伯父だった。  かなりの高齢で、筋肉も衰え、容貌も若い頃の様子からは当然変化していた。  だが殉葬された者たちは、まだ若く、美しい。  そういった者の遺体を、好んで掘り返し使役する者を、ハーヴェルは、幼少の頃からよく知っていた。
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