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「どう?」
カルロはもう片方のミルクをマルガリータに勧めた。
「ミルク……って、どうやって手に入れたのですか? 出産した女性に頼んだの?」
街の北側には、孤児院がある。
貧しい妊婦を受け入れて院内で出産させ、その代わりお乳が出る間、院内の他の乳幼児にもお乳を提供しもらうというシステムがある。
ミルクが貰えるなんて、そんな方法しか思いつかない。
ファウストとカルロは、顔を見合わせた。
ファウストは、訳分からん、という風にあさっての方を向いた。
「山羊の乳だよ」
カルロは言った。
「や……山羊の乳 ? ! 」
マルガリータは甲高い声を上げた。
「牛の乳の方が良かった? 山羊のは匂いに癖があるからね」
「俺はどっちでもいい」
ファウストは言った。
「兄さんはたまに、お腹下すまで飲むよね」
「だめ! 山羊の乳を飲んだら、山羊になってしまいます! 飲んじゃだめ!」
マルガリータはファウストに詰め寄り、飲み下すのを止めようとした。
「うるせえ。迷信しか知らねえ未開人は黙ってろ」
「みか……」
「ええと……街の方ではそう信じられてるらしいけど、農村部なんかでは普通に飲まれてるよ」
カルロは苦笑いして言った。
「おいカルロ、この馬鹿さっさと追い出せ。昼寝も出来ねえ」
ファウストが声を荒げた。
もうすぐ夕方だよ、とカルロは硝子窓の外を見た。
「やっぱり僕のベッドの方が、ゆっくり出来たかなあ」
カルロは言った。
「お前のベッドの方が、殆ど使わんから良かったろ。何でこっちに持って来るんだ」
「僕は発情期ってのがないから、 修道院に何か言われたら、ガリーが釈明しにくいと思って」
こんなん、床に寝かせとけよ、とファウストはブツブツと言った。
語尾がどんどん不明瞭な発音になっていた。まだ眠いらしい。
「あの、少々伺いますが」
マルガリータは、二人の会話に割って入った。
「ここは、女子修道院ではないのですか?」
ファウストが、極端に目を眇めた。ベッドに座り頭を掻いた姿勢のまま、責めるようにカルロを見上げる。
「ガリー、寝起き悪い方?」
カルロは困惑したような口調で言った。
「すみません。わたし、混乱してまして。お二人にそっくりの怪物と、女性の死者に追われる夢を見たものですから」
ファウストとカルロは顔を見合わせた。
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