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i i falco pellegrino
見上げるほどの高い位置まで伸びた大きなステンドグラスには、イエスと聖母の物語が順番に描かれていた。
濃い青をベースにして、白、赤、柔らかな黄色や緑、色とりどりの硝子を使い分け描かれている様は、見事過ぎて、描かれている内容を認識する前に、圧倒されて呆然とする。
ステンドグラスを通して薄く射し込む陽光は、もう夕方のものだった。
早めに帰らなければ、外出禁止の時間帯になってしまう。
男性であれば、その辺の路上に寝転がりホームレスのふりをするそうだが、修道女の格好でそういう訳にもいくまい。
いやそれ以前に、女子修道院の門限というものがあるのだが。
「ソレッラ・マルガリータ、ご苦労だったね」
礼拝堂に入ってきたのは、高齢の司祭だった。
頬は痩せこけ、声もかすれていた。
ゆっくりと危なげもなく歩いてはいたが、流石に勢いのある歩き方ではない。
「いいえ。パオロ神父のお役に立ちたいと、わたしから申し出たのですから」
マルガリータは、ドキドキしながら礼をした。
父の商売に、昔から何かと便宜を図ってくれていた神父だった。
小さな頃から話を聞いていた。
父を挟んで挨拶したことはあったが、会話までしたのは、これが二回目だ。
父の話から伝え聞く、パオロ神父の、信仰に対する高い見識を尊敬していた。
常に人のために生きたいと言うパオロ神父の生き方に憧れて、修道女になる決心をした。
「本来であれば、女性のあなたに行かせるべき所ではないのだが」
パオロ神父は、机に肘を付くようにして体を傾かせ、狭い椅子に腰を押し込むようにして座った。
「女性も男性もありませんわ。わたしは、神父さまのように、人のために生きたいと決心したのですから」
マルガリータは、熱の籠もった口調で言った。
自分に酔う癖があるのでは、と年長の者に指摘されたことがあるが、自覚はない。
そうかい、と神父は手を組んだ。
「それで、怪物どもは、どんな様子でした?」
「様子……ですか」
マルガリータは、先ほどまで会っていた兄弟のことを思い浮かべた。
あの綺麗なお菓子、美味しそうだったな。
食べ損ねてしまったのを、つい悔やんでしまった。
上に乗った砂糖漬けのフルーツとか、いろいろな種類の木の実とか、漂う薬湯の花の香りとか。
こうしてても、とろけるような匂いが甦え……。
違う。それじゃないわ。
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