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「ええと……彼らは、その」
特に害はないのでは、と言おうとしたが、よくよく思い出すと、気のせいか軽くおもちゃにされてた気がする。
「ご、傲慢な性格ではあるようですわ」
キリリとした表情を造り、マルガリータは言った
特に、気を失っている修道女の横で昼寝をしていたというファウストは、考えてみたら、かなり非常識だ。
「女性に気を使うという概念が、無いようです」
「気を……?」
パオロ神父が、不可解そうな表情をした。
あわわ、という風に口をぱくぱくさせてマルガリータは打ち消す仕草をした。
退治しに行った怪物が、気を使ったも何も普通ならあるはずはない。
「ええと、その」
珍しい菓子と薬湯でもてなされて、うっとりしてたなんて、恥ずかしくて格好がつかない。
「その、やはり下等な者たちという意味ですわ」
「そうかい……」
パオロ神父は、嗄れた声で言った。
「ですがあの、言い伝えられていることは、ど、どこまで本当なのかとか、あの」
マルガリータは手元をもじもじさせながら尋ねた。
どうにも聞いていたものとイメージが違い過ぎた。
「特にその、半世紀ほど前に、貴族の姫君が拐われて食われてしまった話とか。それは」
もしもそのつもりなら、気を失っている間に食うことが出来たはずだ。
まさかその段になっても胸のサイズがどうとは言うまい。
……たぶん。
「ソレッラ・マルガリータ、奴らに誑かされたのではないでしょうな」
パオロ神父は、眉間に薄く皺を寄せた。
「え……」
「いや、失礼」
パオロ神父はゆっくりと首を振った。
「奴らは遥か昔から生きているのです。お若い方を騙すのなんか簡単でしょう。現にその貴族の姫君も、誑かされて何度も奴らと逢瀬を重ねていた末のことだったと聞いています」
マルガリータは、ぞわりと鳥肌を立てた。
そうなのね。
一回目は返すんだわ。
そうやって誑かされていくさまを楽しむのかしら。
マルガリータは、組んだ手をぎゅっと握った。
それにしても、あのお菓子惜しかった。
そういえばお腹空いた。
考えてみれば、朝ご飯以来何も食べてない。
人間って、許せないものがあってもお腹空くのね。
何でこうなっちゃうんだろうと、マルガリータは自己嫌悪に陥った。
信仰と心構えが足りないのだわ、と思った。
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