i i falco pellegrino

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 朝露が薔薇の葉を濡らしていた。  春とはいえ、朝露の冷たさを運びながら斜めに差し込む朝日は、少しひんやりしている。  マルガリータは、回廊の掃除をしながら、咲いた薔薇の数を目で数えた。  まだ数輪しか咲いていない。  そのうち満開になったら、綺麗だけど花びらの掃除大変なのよね。  こんなことを考えるわたしも、現実的な大人になっちゃったものだわ。  マルガリータはそんなことを思った。  門限ギリギリに女子修道院に帰り、昨夜見た夢はさらに最悪だった。  クリームたっぷりの豪華なパン菓子になった自分が、巨大な虎と大きな鳥に頭から食われるのだ。  パン菓子なのに何で頭部があるの、と思いながら目が覚めた。  上空を、大きな鳥が飛んでいた。  鷲か、鷹だろうか。  山岳地帯でもない街の中で、あんなに大きな鳥を見かけるのは珍しい。  鳥は、女子修道院の上を何度か旋回した。  一体どんな景色が見えているんだろう。  言葉が通じるなら聞いてみたいかも。  ぼんやりとそんなことを考えていると、鳥は、旋回しながら少しずつ近付いてきた。  (ほうき)を左右に動かしながら、マルガリータは鳥の動きを目で追った。  鳥は女子修道院の庭で低空飛行すると、真っ直ぐに回廊の中に侵入した。  ダークブラウンの翼を横に広げ、回廊を、空気を切り裂くかのような速さで飛行する。  マルガリータの目の前で停まると、身なりのいい男性の姿になった。 「ガリー」 「ひっ」  カルロだった。  おかしな声を上げてマルガリータは後退った。 「ふふふ、服」 「着てるよ」  カルロは、自身の服の襟を摘まんだ。 「僕は兄さんとは違って、服は平気なんだよね。理由は謎だけど」  カルロは女子修道院の庭を見渡した。 「というか、問題そこ?」  はっとマルガリータは口元を抑えた。 「たたたた他人のふりしてください! 女子修道院に男性を連れ込んだなんて思われたら!」 「男性がいるだけで大騒ぎだと思うけど」 「じょ、女性に化けることは出来ないんですか?!」 「出来たら、修道女食い放題だねえ」  カルロはハハハ、と笑った。  ファウストと比べると紳士的に見えるカルロだが、こういう台詞を聞いてると、やっぱり兄弟だわ、とマルガリータは思った。  
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