i i falco pellegrino

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「それで何の用? 報復に来たの?」  マルガリータは、両手で箒を構えた。 「昨日のお菓子、まだ取ってあるから食べにおいで」  ほとんど同時の台詞だった。 「わたしは誑かされて食われたりはしないわ!」 「早く食べないと(かび)が生えるからね」  ふたり同時に黙った。  会話が噛み合ってない。 「……何の報復?」  カルロが尋ねた。 「わ、わたしにロザリオで退治されそうになった……」 「退治というか、乱入」  言ってから、カルロは、あ、まずい、という風に口を押さえた。  一応「乱入」と言わないのが彼なりの気遣いらしい。  基準がいまいち解らないが。 「わたしは、あなたたちには騙されないわ!」  マルガリータは、胸元のロザリオを手に取ろうとした。  が。  ない。 「あ、あら?」  胸元をあちこち触って何度も確認する。 「ロザリオなら、うちに忘れて行ってたよ」  カルロは言った。  マルガリータは、恥ずかしさに耳まで赤くなった。 「わ、わたしからロザリオを奪って何をしようっていうの!」 「というか、ロザリオを忘れたことに一昼夜気付かなかったの?」  カルロは、屈んで子供に言い聞かせるようにマルガリータに目線を合わせた。 「修道女向いてないんじゃないの、ガリー」 「そっ」  マルガリータは声を上げた。 「そんなことないわ。神のために生きたいという意思は、強いつもりよ!」  カルロをキッと見上げる。 「やっぱり面白いなあ」  カルロは含み笑いしながら言った。  お、面白いってなに。  マルガリータから離れ、回廊の庭に面した部分をコツコツと歩き始めたカルロを、マルガリータは目で追った。 「あまりうろうろしないで。誰かに見つかったら本当に……」 「ソレッラ・マルガリータ、お客様がいらしているんですか?」  ひっ。  マルガリータは、声にならない声を上げた。  修道院長の声だった。  回廊の向こう側から、ゆっくりとした歩調で姿を現した。  回廊は面会に使われることもあるので、外部の者がいることはあるのだが、それでも届け出もしていない男性の来客はまずいだろう。 「あ、あの、これはしんっ、親戚の」 「あら、その鳥は」 「え」  マルガリータは、修道院長の視線を目で追った。  濃褐色の大きな鳥が聖母像の足元に停まっていた。  よかった。咄嗟に化けてくれたのね。  マルガリータは、胸を撫で下ろした。
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