i i falco pellegrino

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「し、親戚の鷹匠が飼っている鷹でして」  マルガリータは言った。 「それは(はやぶさ)ね」  修道院長はにっこりと笑った。 「え」  聖母像の足元の隼に、含み笑いされた気がした。  隼の表情なんか分からないが、絶対に笑ってそうだ。 「鷹匠が飼っているのは、鷹よ」  修道院長は、またにっこりと笑った。 「え、えと」  マルガリータは慌てた。  ともかく男性を入れてしまったことがバレたら大変だ。  そう思うあまり、どう取り繕っていいのかすら判断がつかなくなってきた。 「よ、よく見たら、知らない鳥でした」 「そう」  修道院長は言った。  すんなりと誤魔化せたことにマルガリータはホッとした。  隼が、にっと笑った気がした。  実際の表情は変わってないのであろうが、そんな気がした。  不意に羽ばたくと、マルガリータの肩に停まった。 「えっ、ちょっ!」  大きな濃褐色の翼で、一瞬だけ視界が遮られる。マルガリータは、慌てて半歩だけ後退りした。  こんなに近くで接触しても、野性動物独特の匂いはなかった。  寧ろコロンでも付けているんだろうかと思うような、ちょっといい匂いだ。 「あら、ずいぶん気に入られたのねえ」 「違います! こんな鳥知りません!」  マルガリータは、肩を大きく振り、隼を飛び立たせようとした。  そのたびに隼は、大きな翼を広げバランスを取り、飛び立つことも落ちることもしない。  マルガリータの立場を守ってくれようとしてるのか、悪くさせようとしているのかまるで分からない。  まあでも、と修道院長は言った。 「隼とはいえ、雄が女子修道院に来るのは感心しないわねえ」  修道院長すごいな、隼の性別まで分かるのか。  教養豊かな方なんだわ、とマルガリータは改めて尊敬した。 「そ、そうですよね。わたし追い出しておきますわ」 「あらいいのよ。これで済むわ」  修道院長は首を前に傾け、ペンダントを外した。  修道服の下に付けていたらしい。  数種類の宝石と金で、どこかの家の紋章のようにデザインされていた。  隠して身につけられるほど小さなものとはいえ、非常に高価そうなものだということは分かる。  手の平に乗せ、隼の(くちばし)の前に差し出した。 「巣にいる兄弟に持ってお行きなさい」 「え、修道院長?!」  マルガリータは慌てた。 「そんな高価そうなものを」  
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