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唐草模様が透かし彫りされた門を抜け、あまり手入れされていない庭に踏み込む。
所々に生えている雑草が、踏みしめると微かな音を立てる。
豪華なステンドグラスの付いた扉に、丸顔で榛色の大きな目をした自身の顔が映った。
試しにノブを引く。僅かに開いた。
鍵は掛かっていない。
そ、そうよね。とマルガリータは、心音を落ち着かせた。
怪物に、鍵など必要なはずはない。
一気に開けようとして、思い直す。
いや。相手は怪物なのだ。
修道女が退治に来ることくらい、お見通しかもしれない。
これは罠かも。
ここを開けた途端に、巨大な虎が口を開けて。
いえ、もしかすると死人の大群が。
お、面白いわ。
マルガリータは無理に笑ってみた。
悪魔のごとき怪物が、どんな手で来ようが、私には神と尊敬する神父様と、送り出してくれた修道院長が付いている。
迎え撃ってあげるわ。
マルガリータは、扉を一気に開けた。
開けた瞬間、間髪入れず、聖水を正面に向けてぶちまける。
「かかって来なさい! 怪物め! 聖カテリーナ女子修道院修道女、マルガリータ・ディ・ジョヴァンニがお相手するわ!」
だが。
広く贅沢な装飾の施された玄関には、誰もいなかった。
「あ……ら?」
マルガリータは、拍子抜けして立ち尽くした。
わ、罠かな。
マルガリータは辺りを見回した。
少々薄汚れてはいたが、広い玄関フロアだった。
両側に置かれた大きな燭台は、銀製で繊細な模様が施されているものだった。
蝋燭を置く台が枝のように何本もある。それぞれの台に置かれた蝋燭は新しく、常に取り替えられているようだった。
正面壁に飾られた美しい女性の像や、聖書の一部分を描いた絵画は、教会にあるものと匹敵するような素晴らしさだ。あまり詳しくはないが、美術品としては一級品であろう。
フロア奥にある螺旋階段には、東洋の雰囲気を取り入れた唐草模様が手すりに透かし彫りされていた。
富豪か貴族の屋敷の入り口そのものだ。
おそるおそるマルガリータは、歩を進めてみた。
何も起こらない。
ロザリオを胸の前に翳し、少しずつ、奥へと進んだ。
歩を進めるごとに、歩き方がうっかり大胆になってきた。
いないのかしらから、いないといいな、いないと思う。そんな風にマルガリータの心理と願望が入れ替わっていった。
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