i i i rosario

1/8
前へ
/65ページ
次へ

i i i rosario

 城壁傍にあるモレーニ家の元別宅だった屋敷は、数代前のとある娘のために建てられたともいわれ、外観的なデザインは、どちらかといえば女性好みのものだった。  治安上、やや問題があるともいえる城壁そばに建てられたことについては、様々な憶測が囁かれたりもしたが、現在は、殆どの街の住人が、空き家であろうという認識だけで、関心を持つこともない。  豪華だが、さほど手入れはされていない玄関先に、カルロは隼の姿で降り立った。  地面に脚を着けた瞬間に身なりの良い男性の姿に変化し、口に咥えたペンダントを手に取った。  玄関ホールから伸びる螺旋階段を上がり、二階の一角にある部屋のドアをノックする。  返事はなかったが、そのままドアを開けた。  二階でも一番陽当たりの良いこの部屋は、真夏以外は、ファウストのお気に入りの部屋だった。  カルロはあえて選ぶなら、適度に日射の遮られた場所の方が好きなのだが、ファウストは、燦々と陽が当たる場所が好きだ。  窓際に置かれたベッドで、ファウストは猫のように丸くなって寝ていた。  気持ち良さそうに口をもごもごと動かしている。  ファウストの寝ているときの癖だ。何かを食べている夢でも見ているのだろうか。  カルロは寝顔の横に手を付いた。  顔を傾け覗き込むと、ファウストは、気配に気付いて目を開けた。  薄い唇を開いて、カルロは声を発しかけた。  だがそれより早く、ファウストが首に腕を回し、ヘッドロックの形で押さえつけた。  「ちょっ……痛っ、何すんの」 「何しようとしてた」  ファウストは、寝ぼけた声で言った。  カルロよりもずっと太い腕でがっちりと固めた。 「起こすタイミング見計らってただけだよ」  カルロは枕元をバンバンと叩き、やめてくれ、とアピールした。 「また寝てる間に、口にハンカチ何枚も詰め込む気だろ」 「どこの女の子と間違えてんの、それ」  ファウストは両腕を外した。 「どこのだっけ」 「というか兄さん、女の子にまでこんなことしてないだろうね」  カルロはベッドに座り直し首をさすった。 「お土産」  カルロは、修道院長の差し出したペンダントを、ファウストの目の前に翳した。  ファウストは、黙ってペンダントヘッドの部分を指先で弄んだ。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加