i i i rosario

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「マリア・ロレイナ見てきたのか」 「他の用事のついでにね」  カルロは言った。 「婆だったろ」 「綺麗なお婆さんだったよ」 「ふん……」 「穏やかな人生だったんだろうねえ」  カルロはペンダントを持ったまま立ち上がろうとしたが、ファウストが指先でペンダントの鎖を引っ張った。  カルロの手から鎖を引きずり出し、起き上がる。 「貰う」  そう言って太い首に掛けようとする。 「兄さんが付けるには鎖が短すぎるよ。付け替えてからにしなよ」 「んー」  ファウストは、おもむろにペンダントを手首に巻き付けた。 「何だっけ、女がこうやって巻いてるやつ」 「ブレスレット?」 「これならいけるだろ」 「……夕方までには、邪魔になって引きちぎってるね。絶対」  カルロは言った。 「あれ、そんなに邪魔なもんか」 「邪魔だと思うよ」  ファウストは、ペンダントを手首から外すと、枕元に放り投げた。 「用はこれだけか? んじゃもう一回寝る」  背中を向けてゴロンと横になった。  カルロは、背中側から兄の顔を覗きこんだ。 「もう一つあるよ。ガリーの実家の話、聞きたくない?」 「ペタ胸生産した家なんか知らん」  ファウストは、ヒラヒラと手を振った。 「そこそこの商家らしいね」 「お前、わざわざ調べてたの?」  既に半分寝入っているかような声でファウストは言った。 「たまたまだよ。別のこと調べてたら出てきた」  ファウストは今度は仰向けになると、覗きこむカルロの、長めの襟足の髪を指で弄んだ。 「それ、急ぐか?」 「いや、後でもいいよ」  カルロはにっこりと笑った。 「んじゃ寝る」 「おやすみ」  言ったものの、ファウストはしょっちゅう寝ているため、起きているタイミングに出会うのは、なかなか難しい。  話が出来るのは何時頃になるかな、とカルロは苦笑した。  ドアを開け廊下に出ると、仮面を着けた使用人が礼をした。 「起きたら、ミルク持って行ってやって」  使用人は、もう一度礼をした。 「ああ、それと。ガリーがもし来たら……」  怖がられないよう、気を付けて出迎えて、と言おうとしたが、カルロは宙を眺めて少し考えこんだ。 「……いい。僕が出迎える。来たら呼んで」  カルロはそう言った。  よくよく考えたら、あの菓子、女子修道院に差し入れとして持って行けば良かった。  
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