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古い友人のレオナルドが持って来たのだが、甘ったるそうな上にボリュームがあり過ぎて持て余していたのだ。
今日来なかったらそうするかな、と思った。
次の日の昼過ぎ。
聖カテリーナ女子修道院の空気は、明らかにうきうきと華やいでいた。
修道院内で私語を話すことは多くはないのだが、静かな中に、花が舞っているかのような空気を感じる。
よく見ると、心なしか頬を赤くして俯き気味に歩く者や、口元の緩みを噛み殺しているかのような表情をしている者もいた。
穏やかな日射しの日だった。
ふわりとした風に、先日よりも少々強くなった薔薇の香りが混じっていた。
「気のせいか皆さまの様子がいつもと違うような。何かあったのですか?」
庭の手入れを終え厨房の手伝いに来たマルガリータは、先輩にあたる修道女に尋ねた。
「お菓子の差し入れがあったそうですわ。豪華でとても綺麗な」
「まあ、そうですの……」
あの、怪物の兄弟のところで食べ損ねた菓子をまた思い出してしまった。
取ってあると言われたが、相手は怪物だ。
どんな罠かも分からない。
次に行くときは、確実に退治をする準備を整えて行くつもりだった。
菓子はとても惜しいが。
「よほど美味しそうなお菓子なのですね。廊下を歩いていても、皆さま、とても嬉しそうなご様子で」
「嬉しいというか、その」
先輩の修道女は、口元を抑え俯いた。
「持っていらした方が……匿名の貴族の方らしいのですが」
「はい」
マルガリータは、相槌を打った。
「女子修道院に、こんな風に細かい気配りをしてくださるなんて、立派な方ですわね」
マルガリータは言った。
「立派……やだ」
先輩の修道女は、赤くなり向こうを向いてしまった。
マルガリータはポカンとした。
何なの?
「あの方、もう帰られるようですわ」
二人の修道女が、ぱたぱたと厨房に入って来た。
ここの方々はいつも静かに歩くのに、とマルガリータは目を丸くした。
ひとりの修道女が、厨房の飾りの入った窓の外を除き込んだ。
「ここから見えますわ」
修道女たちが窓際に駆け寄った。
何が何やらでマルガリータは戸惑っていたが、とりあえず三人の後ろから外を覗いた。
女子修道院の玄関前から門まで続く通路が、窓の外に見える。
生い茂る木の葉の間から、上品な仕草で挨拶する男性が見えた。
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