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怪物の屋敷の仮面を付けた使用人は、マルガリータの顔を見ると、戸惑ったように口元に指を当てた。
無言で礼をすると、マルガリータを玄関ホールに置き去りにしたまま奥に消えた。
暫くして、入れ替わりに現れたのは、カルロだった。
「やあガリー、どうしたの?」
威勢よく声を上げたいのを抑えて、マルガリータは息を整えた。
相手は、いつからとも知れない大昔から生きている怪物だ。
こちらを騙す機会を待っている。
落ち着いて。
感情的になったら負けだわ。
「聖カテリーナ女子修道院から参りました」
「知ってるよ」
「昨日、素敵な物を差し入れしていただきまして、お礼に伺いましたわ」
「まあ、君の食べ残しだけどね」
ハハハ、と笑って、カルロは中に促した。
「お茶でも」
「いえ」
「あ、ミルクがいい?」
何か、既にからかいモードに入りかけているような雰囲気を感じる。
負けるもんですか、とマルガリータは大きく深呼吸した。
「ここで結構です。すぐにおいとま致しますわ」
「ああ、そう」
カルロは素直にそう返事をした。
勝ったわ、取り敢えず一勝したわ。マルガリータは、自分でもよく分からない達成感に高揚した。
「ひとことだけ注意をしに来たの。修道女たちをわざわざ誑かしに来るのは……」
「ロザリオ、ちゃんと保管してるからね」
不意にカルロは言った。
「え?」
「忘れて行ったよって伝えたよね?」
「あ」
忘れてた。
マルガリータは、手を組んだ。
信仰が足りないせいでは多分ないわ。いろいろばたばたしていたから。
「お手数おかけしました。持って来ていただけますか?」
余裕の微笑みを浮かべてみた。
「それがね」
カルロは腕を組んだ。
「ああいう神聖なものは、僕たちには触れられなくてね」
「え……」
「この前お茶を飲んでた部屋にあるから、自分で持って行ってくれるかな?」
この前の部屋……。
マルガリータは肩を僅かに傾け、玄関ホールの奥の方を眺めた。
あの部屋、結構奥なのよね。
「例えば、ハンカチに包むとか。それでも無理ですか?」
「無理だね。神の力が強すぎて」
カルロは、自分の手の甲をさすった。
触れば火傷してしまう、という意味に取れるジェスチャーだった。
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