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マルガリータは、カルロの顔をじっと見た。
さっさと用だけ済ませて帰ろうとしていたのだが。
「分かりました。持って帰ります」
他人行儀に礼をした。あくまでわたしとあなた方は他人、という意思表示だ。
うん、と頷いて、カルロは中へと促した。
よくよく見ると、促す仕草が確かに品のある感じだ。
貴族に成り済ますくらい簡単かもしれない。
だからといって、怪物に頬を染めるなんて、女子修道院の皆さまもどうかしている。
玄関ホールから続く長い廊下を、カルロの後について行った。
最初にこの屋敷に来たときに通った廊下だ。
あのときには気付かなかったが、両側の壁に金色の細かい模様が入り、数歩置きに繊細な細工の燭台が取り付けられている。
「そういえば、昨日のお付きの方々は? 見た目は普通の人間でしたけど、あれも死人?」
「あれは生きた人間」
カルロは言った。
マルガリータは、目を丸くしてカルロの顔を見上げた。
「少し前に知り合った、芸術家の卵と貴族の家の五男だよ」
マルガリータは、微かに口元を震わせた。
「け、契約とか、そういうもの?」
「そんなの無いよ。僕らをただの、暇な貴族の子息だと思っていて、たまに遊びの提案に乗ってくれる」
マルガリータは、唇を小さく震わせながら、手を組んだ。
遊びですって?
女子修道院に、偽りの身分で乗り込んで、修道女たちをことごとく虜にして、誑かすのが、遊びですってえええ!
修道女たちは、今朝も何かといえばカルロのことを話題にしていた。
お祈りの後ですら、あのお方が、と言って、顔を寄せ合ってクスクス笑ったりしていたのだ。
マルガリータは驚愕した。
おのれ、これが目的だったのね。修道女を堕落させて喜んでいるんだわ。
見てなさい。
ロザリオを取り返したら、神の力で撃退してやる。
マルガリータは、組んだ両手を握りしめた。
自分から弱点を白状するなんて、油断したわね、カルロ。
マルガリータは、カルロに顔が見えないようにして、勝ち誇った。
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