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厨房のすぐ傍にあるリビングルームは、最初に来たときと変わらず、大きな硝子窓から柔らかな光が差し込んでいた。
ドアの色に合わせた臙脂色のタペストリーと絨毯、差し色の役割をしている白い猫足のテーブル、壁紙の金で描かれた模様、怪物の屋敷だと分かってはいても、うっとりと眺めてしまう。
相変わらず、お屋敷は素敵だわ、と惚けてしまったマルガリータだったが、いえ、と思い直してカルロを睨み付けた。
「それで、ロザリオはどこに?」
「ちゃんとあるから、お茶でも飲んで行かない?」
カルロは言った。
「いえ、結構です」
マルガリータはきっぱりと言った。
「またクリームたっぷりのお菓子をいただいたんだよね」
カルロはにっこりと笑った。
うっ、とマルガリータは喉の奥を鳴らした。
「食べて行かない?」
ううっ、とマルガリータは心の中で声を上げ、誘惑に抗った。
「なぜそう毎回毎回、おふたりが食べもしないお菓子があるの? まさか、女性を誑かすために、わざわざ用意して置くんじゃないでしょうね」
マルガリータは、警戒してケープの胸の辺りを両手で掴んだ。
「言わなかったっけ? 古い友人のレオナルドが、しょっちゅう持って来るんだよ」
カルロは言った。
「僕ら、どちらも甘いものはそんなに好きじゃないから、毎回ちょっと困るんだよねえ」
「そのシニョーレ・レオナルドに、迷惑だとはっきり言ったらいいじゃないの」
「何となく、言いにくいんだよねえ」
カルロは困ったように苦笑した。
「ガリー、今度直接言ってくれる?」
カルロは厨房に通じるドアを開け、向こうにいる誰かに話しかけたようだった。
「何も食べて行く気はありません。用が済んだらすぐ帰るわ」
広いリビングのそちら側にもよく聞こえるように、マルガリータは、声を張り上げた。
「ペタ胸、やっと来やがったか」
ずかずかとファウストが入室した。
「おはよう兄さん」
カルロはファウストの方を振り向いた。
「ガリーはどうも、兄さんの起きてる時に遭遇する率高いね」
「こんな糞ガキが屋敷内で煩くしてたら、昼寝もしてられねえ」
ファウストは金色の短髪を掻いた。
「失礼ね。煩くなんかしてません」
マルガリータはキッとファウストを見上げた。
「存在自体が煩いんだ、お前」
ファウストは屈んでマルガリータに目線を合わせ、子供に言い聞かせるように言った。
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