i i i rosario

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 なにそれ、とマルガリータは言い返そうとした。  口を開きかけたとき、眼前にロザリオをぶら下げられた。  視線のすぐ前で、ロザリオが左右に揺れた。 「このガラクタ、さっさと持ち帰れ。いつまで人ん家に置いとく気だ」 「え」  マルガリータは、ロザリオの鎖の部分を目で辿った。  ファウストの、指のがっしりとした大きな手に、二、三重に巻かれていた。 「も……持ってる?」 「はあ?」  ファウストは、不機嫌そうに目を眇めた。 「神聖なので触れないんじゃあ……」  マルガリータは、そのまま首だけをカルロのいる方向に向けた。 「あーあ。兄さん」  カルロが、口の端を上げ笑った。 「だ、騙したの?!」  マルガリータは声を上げた。 「え、お前、こんなの騙してまで家に入れたい?」  ファウストは、マルガリータを指差した。 「修道女を騙して屋敷に連れ込むなんて何を企んでるの!」 「だってレオナルドの持って来る菓子の始末にちょうどいいじゃないか」  カルロは言った。 「ああ、それは言える。与えたそばから二、三個ぺろっと食べそうだし」 「他人(ひと)を大食いの犬みたいに言わないでください!」  ファウストは、眠たそうに再び頭を掻いた。 「まあいいや。もう一回寝る」 「え、え? 今起きてきたばかりじゃ……」 「うん、まあ、兄さんはそんなもん」  カルロは何でもないことのように言った。 「しょうがないな。また女子修道院に……」  困った口調でカルロは言った。 「そういう口実で、修道女を誑かしに来るのはやめて!」  マルガリータは大きな声を上げた。 「なにお前、修道院の女誑かしに行ったの?」  部屋を出かかったファウストが振り向いた。 「何で俺を誘わないの」 「寝てたからじゃないか」  呆れたようにカルロは言った。 「お菓子が傷むと勿体ないから、差し入れしただけなんだけどね。ガリーが何か拡大解釈してるらしくて」  ファウストは、ドアノブに手を掛けたままマルガリータを見た。 「拡大解釈だけで生きてんだろ、お前」  ど……どういう意味、という風にマルガリータは、口をぱくぱくとさせた。
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