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身なりは悪くない。
良家とまではいわないが、裕福な職人か豪農の子供という感じだろうか。
親の行商に付いて来て、迷子になったのだろうか。
少年はベッドに登り、ぱふんと音を立てて腹這いになった。
「ああ疲れたあ。箒持って追いかけられたのなんて、百年ぶり」
「え?」
「ね、ちょっと休んでいい?」
「え? え、どうぞ」
マルガリータはついそう答えた。
……あれ?
な、何やってんだろ。
「あの、どこの子?」
「ああ、僕ねえ、ガリーって人に会いに来たの」
「え?」
「別名ペタ胸っていうんだって」
「は?」
マルガリータは表情をつい歪ませた。
これは。
かなりな高確率で、あのふたりの関係者だわ。
「ガリーって人いる?」
少年は腹這いのまま、顔だけを上げ尋ねた。
マルガリータは、ゆっくりと少年から目を逸らした。
あの二人には、もう関わらない方がいいと思う。立場的にも、精神衛生的にも。
手を組み言った。
「ガ、ガリーなんて人はいないわ。ちなみにわたしの名前は、マルガリータよ。マルガリータ・ディ・ジョヴァンニ」
「全然違うね」
「そうよ」
「ガリー」
背後から、そう呼ばれた。
明かり取りの窓から大きな隼が顔を出し、そのまま室内にするりと入ると、床に着地して男性の姿になった。
「な……」
マルガリータは焦って頬を紅潮させた。
カルロだった。
このタイミングで言うとか、嫌がらせ?
「あっ、カルロ」
少年が上体を起こして手招きした。
カルロはつかつかとベッドに近付くと、かがんで少年の脇に手をついた。
そのまま抱き上げようとする仕草にも見えたが、動物同士が仲間の匂いを確認し合うときのように、鼻を近付けた。
「やっぱり来てた」
「うん。カルロも休んで行く?」
少年は無邪気に言った。
マルガリータはふるふると組んだ手を震わせてた。
この子だけならともかく、カルロはやめて。
女性の、しかも清らかな修道女のベッドなんですけど。
「ファウストは来てないの?」
少年は、抱っこをせがむようにカルロの首に両手を回した。
「兄さんはこんな所まで面倒臭がって来ないよ」
「僕、ファウストの方が気が合うんだけどなあ」
「そうだね、君は」
「あの」
表情をあえて固くして、マルガリータは口を挟んだ。
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