i v capretto

7/10
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「そうよ。黙っててあげるから、早く帰って」 「……あんまり殺風景だから、空き部屋かと思った」 「僕も」  マルガリータは、え? という形に口を開いて呆けた。  「女の人の部屋って、もっと細々したカラフルな物があって、いい匂いがしてたりするんだけどね」  カルロは言った。 「ファウストだったら、色気ねえーって一刀両断にしそう」  レオナルドも部屋を見回しながら、はしゃいだ感じで言った。 「大きなお世話よ」  この人達って、ずけずけ物言う慣習でもあるのかしら。 「修道女のお部屋は質素でいいのよ」  マルガリータは言った。 「前に仲良くなった修道女さんは、ベッドカバーに、ピンクの可愛らしい生地使ってたっけ」  カルロはマルガリータの味気ないベッドカバーを眺めた。 「わたしは、あなたと仲良くなる気はないわよ!」 「ガリー、それちょっと論点違う」  カルロは言った。 「うるさいわね! さっさと帰って!」 「しょうがないね、レオナルド」  カルロはレオナルドの手を取った。  そのままドアの方へ促す。 「ちょ、ちょっと待って。どこから帰るの」 「廊下を通って玄関口から」  当然のようにカルロは言った。 「窓から帰れないの」 「レオナルドは飛べないよ」 「変身すれば……」 「黒い雄山羊が空飛んでたら、それこそ街中に戒厳令が出るねえ」  アハハハハ、とカルロは笑った。 「ここの人たち、お祈りするとこ見てただけで、(ほうき)持って追いかけて来るんだもんね」  レオナルドははしゃいで言った。  さっき修道女たちが言っていた悪魔のような雄山羊って、もしかしてレオナルド。  マルガリータは呆然とした。   タイミング的に気付いても良かった。  今ごろ気付いたと口に出したら、またカルロに笑われているところだ。 「じゃ、ガリー、邪魔したね」  カルロはドアノブに手をかけた。 「え、ちょっ、ちょっと待って」  マルガリータは、手を差し出し引き留めようとしたが、先にカルロはドアを開けていた。  レオナルドの手を引き、廊下に出る。  何人かの修道女がカルロの姿に気付き、あらっ、とか、まっ、といった声が上がった。 「貴方は、先日の……」 「あああの、皆さん、違うんです、これは」  マルガリータは慌ててカルロの前に立ち塞がり、必死に両手を振って弁解した。  私室から男性が出てきたなんて、言い訳のしようもない。 「違うんです、あの」
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!