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「皆さん、申し訳ありません。弟がご迷惑をかけてしまったようで」
カルロは、手を引いたレオナルドを指し示すと、にっこりと笑った。
「え……え、弟君?」
修道女たちは口元を押さえ、それぞれにカルロの胸元や足元辺りに視線を泳がせた。
気恥ずかしくて顔は見られないのだ。
ああ、また花が咲いたような空気が漂ってるわ……とマルガリータは眉を寄せた。
「ええ、ここには清らかで信仰に篤い、立派な女性たちが暮らしているんだよ、と教えたら、弟がどうしても直接お話したいと、無断で入り込んでしまいまして」
「まああ……立派なんてそんな」
修道女たちは照れて口元を緩ませた。
皆さま、この事態の要点はそこではないでしょう、とマルガリータは内心で突っ込みを入れた。
「こちらの、ソレッラ・マルガリータが弟を見つけ、私室で信仰の道について説いてくださっていたようで」
カルロはマルガリータを品よく指し示した。
マルガリータは、へっ? という表情でカルロを見上げた。
「まああ……ソレッラ・マルガリータが……」
修道女のひとりが痛み入る感じで言った。
しかし、内容はたぶん頭に入っていないだろう。
カルロは、レオナルドを促した。
「さ、皆さんにご挨拶しなさい」
「うん。勝手に入っちゃって、ごめんねえ」
レオナルドは、にっこりとして話を合わせた。
何も知らずに見れば、レオナルドは宗教画の天使のように見える。
修道女たちの目には、すっかり「弟想いの優しい貴族の御曹司」と、「天使のような弟君」に映っているのだろう。
なにいちいち無駄に好感度上げてんのかしら。
レオナルドをダシにわざとやってるんじゃ。
「お詫びにそのうちまた、皆さんにささやかな贈り物を届けたいと」
「いいいいいえ、そんな。気になさらないで」
年長の修道女が言った。
「可愛らしくて利発そうな弟君ですわね……」
恥じらいながらそう続ける。
「それと、大変厚かましいお願いなのですが」
カルロが言った。
「僕たち、この辺りの道に不案内なので、ソレッラ・マルガリータを道案内にお借り出来たらと」
「あ、そ、そうですわよね。この辺りは、貴族の方々のお屋敷からは離れている界隈ですし。ど、どうぞ」
年長の修道女は言った。
どうぞじゃないわ。人を怪物の生贄にあっさり差し出すのはやめて。
マルガリータは眉根を寄せた。
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