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パオロ神父は、組んだ手の上に顎を乗せ、チラッと目を合わせてきた。
「いいえ」
「少しは、お父上から手解きを受けてはいるのでは」
「私は三男なのでね。父と話す機会なんか、一番上の兄に比べたら全く」
「そうなんですか」
ミケーレはそう返した。
自分の家は、兄弟の扱われ方にそれほど差はなかったので、ピンと来ないのだが、そういう家もあるだろう。
いや、そこそこの資産を築いた家としては、うちの方が少し変わっているのか。
特に一番下の妹のマルガリータは、跡継ぎでもないのに、相当過保護にされていた印象がある。
かなり天然な妹は、いまだ気付いていないだろうが。
マルガリータが女子修道院に入りたいと言ったときも、おかしな男に嫁にやるくらいならと、寧ろ父は大喜びだった。
嫁として余所で苦労するくらいなら、厳重に守られた平等な女の園で静かに一生を過ごしてくれという考えだ。
このとき、ミケーレは、幸せというものの基準が分からなくなった。
正直、いまだ混乱している。
「なぜ、私の生家の話を?」
パオロ神父が尋ねた。
「ああいえ。神父さまの荷物も、先月から、父に代わって私が担当することになりまして。引き継ぎの際、改めて仕様等のチェックをしたもので」
「そうですか。それは宜しくお願いしますね」
パオロ神父は、ゆっくりとした口調で言った。
「それで……」
そう言いかけて、ミケーレは言葉に詰まった。
確認したいことがあったのは確かだ。
だが、言葉を選ばないと、顧客の気分を害するだけの結果になりかねない。
「積み荷の」
ミケーレはそう言いかけた。
ほぼ同時にパオロ神父が言葉を発した。
「最近、妹さんが何度かこちらにいらっしゃいましてね」
え、とミケーレは唇を薄く開けた。
「どの、妹ですか?」
ミケーレは言った。妹は三人いる。上二人は嫁いでいるが。
「ソレッラ・マルガリータでしたかな」
ああ、と言ってミケーレは微笑した。
「一番下の妹です」
「ああ、そう」
パオロ神父は、軽く頷いた。
「女子修道院の用事で、こちらに来たんですか? あいつ」
「いえ、個人的にという感じです」
は、と息を吐いてミケーレは笑った。
「しょうのない奴ですね。女子修道院に入った身で、ちょろちょろと」
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