28人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「そうねえ。私もそんな風に聞いているわ」
マリア・ロレイナは言った。
修道女は不意にクスクスと笑った。
「恐ろしい怪物が棲んでいるなんてお話もありますが……。そんなお伽噺を信じる人はいませんわよねえ」
そうねえ、とマリア・ロレイナは微笑して相槌を打った。
「もし元気なら、私が確かめに行きたかったのだけれどねえ」
え、と修道女は聞き返した。
「何をですか?」
「もちろん、怪物が住んでいるのかどうかよ」
マリア・ロレイナは言った。
修道女は再びクスクスと笑った。
「おりませんわ。そんな恐ろしい姿をした者が街の中を歩いていたら、大騒ぎになりますわ」
そうねえ、とマリア・ロレイナは静かに言った。
春の柔らかな風が、乾いた頬を撫でた。
見た夢は最悪だった。
見目麗しい高貴な男性が怪物に化けて、美人の屍をけしかけるのだ。
必死でロザリオを掲げるが、屍が運んで来た、世にも美しく美味しそうなお菓子に堕落させられてしまう。
ぱっちりと目が開き、一転して造りの良い天井が視界に飛び込んだ。
夢だったのね、と気付いた。
マルガリータは、ゆっくりと手を伸ばし、自身の栗色の前髪を手櫛で鋤いた。
それにしても豪華な天井。
朱色地に金で、複雑な模様が一面に描かれている。
真ん中から吊された、宝石飾りの付いた蝋燭立ては、一体何本の蝋燭が立てられるものなのだろう。台の数を数え切れない。
全ての台の蝋燭に火を灯せば、宝石飾りに反射して、それはもう美しいだろう。
修道院に、こんな豪華な部屋があったのかしら。
客間かな。
僅かに腕を動かすと、傍らに人肌を感じた。
横にも誰か寝ていたようだ。
当然、修道院の誰かだろうと思った。
一緒に寝かせられていた理由は分からないが、この部屋のことは聞けるだろうか。
「あの、起きていらっしゃいますか」
天井を見上げたまま、マルガリータは小さい声で言ってみた。
ややして横の人物は、「うー」と唸るような声を立てた。
「あの、お具合でも」
マルガリータは上体を起こした。
横にいる人物は、猫のように丸くなりマルガリータに背中を向けていた。
大柄な人物のようだ。
こんな大柄な方、修道院にいたかしら。そう思いながら、二の腕に手をかけて軽く揺する。
「大丈夫ですか」
かなりな筋肉質だ。
最初のコメントを投稿しよう!