i rosa

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「そうねえ。私もそんな風に聞いているわ」  マリア・ロレイナは言った。  修道女は不意にクスクスと笑った。 「恐ろしい怪物(モストロ)が棲んでいるなんてお話もありますが……。そんなお伽噺(とぎばなし)を信じる人はいませんわよねえ」  そうねえ、とマリア・ロレイナは微笑して相槌を打った。 「もし元気なら、私が確かめに行きたかったのだけれどねえ」  え、と修道女は聞き返した。 「何をですか?」 「もちろん、怪物(モストロ)が住んでいるのかどうかよ」  マリア・ロレイナは言った。  修道女は再びクスクスと笑った。 「おりませんわ。そんな恐ろしい姿をした者が街の中を歩いていたら、大騒ぎになりますわ」  そうねえ、とマリア・ロレイナは静かに言った。  春の柔らかな風が、乾いた頬を撫でた。    見た夢は最悪だった。  見目麗しい高貴な男性が怪物に化けて、美人の屍をけしかけるのだ。  必死でロザリオを掲げるが、屍が運んで来た、世にも美しく美味しそうなお菓子に堕落させられてしまう。  ぱっちりと目が開き、一転して造りの良い天井が視界に飛び込んだ。  夢だったのね、と気付いた。   マルガリータは、ゆっくりと手を伸ばし、自身の栗色の前髪を手櫛で鋤いた。  それにしても豪華な天井。  朱色地に金で、複雑な模様が一面に描かれている。  真ん中から吊された、宝石飾りの付いた蝋燭立ては、一体何本の蝋燭が立てられるものなのだろう。台の数を数え切れない。  全ての台の蝋燭に火を灯せば、宝石飾りに反射して、それはもう美しいだろう。  修道院に、こんな豪華な部屋があったのかしら。  客間かな。  僅かに腕を動かすと、傍らに人肌を感じた。  横にも誰か寝ていたようだ。  当然、修道院の誰かだろうと思った。  一緒に寝かせられていた理由は分からないが、この部屋のことは聞けるだろうか。 「あの、起きていらっしゃいますか」  天井を見上げたまま、マルガリータは小さい声で言ってみた。  ややして横の人物は、「うー」と唸るような声を立てた。 「あの、お具合でも」  マルガリータは上体を起こした。  横にいる人物は、猫のように丸くなりマルガリータに背中を向けていた。  大柄な人物のようだ。  こんな大柄な方、修道院にいたかしら。そう思いながら、二の腕に手をかけて軽く揺する。 「大丈夫ですか」  かなりな筋肉質だ。
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